パッチ・ケーブルをシールド構造から自作

始めに

ペダル同士を繋ぐパッチ・ケーブルに求められるのは、音の良さはもちろん、取り回しの良さがあるかと思います。
私も今まで、Mogami、Belden、GeogeL’s、Custom Audio、CANARE 等々、色々とシールドを買い漁って試してきました。個人的には、パッチケーブルでは、色付けが無く、ワイドレンジな物を使いたいので、Mogami 3368 辺りが好みなのですが、外形が大変に太い為、ペダルボード上で使うのは難しかったりします。その他、周波数特性が特に広いもので思い浮かぶのは、Belden 88760 がありますが、こちらは非常に硬く(音ではなく物理的に)、パッチケーブルには向きません。また、中音域がしっかりし過ぎていて、エレキギターには合っていなかったり・・・ 変な話ですが、ある程度は劣化していないとエレキギターには合わないという事が、割とあります。

そこで今回、ワイドレンジで、且つ取り回しの良い線を目指して、芯線とシールド編線を別で仕入れるところから、パッチケーブルを作ってみました。

材料

  • 芯線:AWG24位の太さ、なるべく日本製の無酸素銅のもの。2色あると安心
  • シールド網組チューブ:中に通す線の外径が3~8mmとあるものを使いました。
  • プラグx2:買いだめしてあったClassicPro
  • 熱収縮チューブ:何種類か太さが違うものがあると安心
  • 網組チューブ:φ6mmを使用。見た目と表面の保護に
  • その他道具類:半田ごて、はんだ等。持ってなければダイソーにあるので十分。

芯線を適度な長さにカット

この後ねじってツイスト構造にするので、仕上がりのサイズよりも、若干長めに切断します。

今回は、大体 20cm くらいに作ろうとしていますが、完全にはコントロールできません。

芯線を捻る

芯線を捻って”ツイスト構造”にします。この構造になっている事で、外来の電波等によるノイズの低減が期待できます。HotとColdで、逆向きの電流が流れている事による、磁界が逆位相で打ち消し合ってなんたらかんたら。この状態でプラグをつけると”ツイスト・ペア・ケーブル”という代物になります。Beldenのウミヘビとかね

巻き具合の差で、極端に長さが違ってしまわないように注意。

シールドに通す

捻ったツイスト・ペア線をシールド網組チューブに通します。

今回は協和ハーモネットさんの KNZ-SC4 というものを使いました。押し広げると広がるので、見た目よりも太い線を通せます。

シールド線の処理1

KNZ-SC4 は樹脂繊維っぽいのが一緒に編みこんであるので、熱収縮チューブをストッパーにして金属線を裏返し、樹脂だけを切断します。恐らく強度か取り回しの為の仕様かと思います。隙間があるのが気になる方がおられるかも知れませんが、シールド構造は、必ずしも全面が導体で覆われてる必要は無かったと思うので、軽くて丈夫になるなら良いんじゃないかな? 処理はめんどくさいですけど。

シールド線の処理2

プラグへ半田付けできる状態にして行きます。作業中にバラけるのが嫌なので、この段階で、各線の先端をある程度半田で固めてしまいます。樹脂繊維をライターで処理しようとしたらちょっと焦げた。

逆側の処理

逆側はシールドをプラグに結線しない仕様にしてみました。シールドケーブルの作り方としては、本来これが正しいお作法らしいです。決して方向性がどうたらでは無い。それでも通例、両側のシールドが結線されるのは、強度の為と思われます。ぶっといシールドがプラグにガチっとくっついていないと、実用に際して芯線に曲げ、捻れ等で付加が掛かり、断線しやすいと思います。 今回は、自分で使うだけなので誰にも迷惑掛からないし、一度やってみようかなと。この両側を結線するしないでは、”グラウンド・ループが~”というお話がありますが、パッチケーブルでその差を実感する事は多分無い

全体を熱収縮チューブで覆う

取回しが悪くなるので、お好みで省けなくも無いんですが、”ある程度の酸化防止”と”水濡れ対策”として、やっておいた方が良いと思います。ヒートガンとかは持ってないので、半田ごての根元でやってます。このままプラグをつけて完成としても、機能的にはさほど問題ない。

網組チューブでカッコ良くする


熱収縮チューブのままではアレなので、編み組みチューブを通して見た目をカッコ良くします。シールドチューブに通す時と大体一緒。端は収縮チューブでバラけない様に処理。

プラグに半田付け

いよいよプラグに結線します。”有色ホットの法則”に則り、赤をTipに、白をSleeveの端子に繋ぎます。プラグカバー部分とSleeveの端子が別になっている場合は、白をSleeveの端子、シールドをプラグカバーにと分けても良いかも。シールドカバー部分とSleeveが兼用な事も多いので、その場合は白とシールドを一緒に捻って纏めて結線したりします。別に音に差が出たりはしないので気分の問題。

問題になる可能性があるのが、ステレオプラグで代用しようとする場合です。多くのペダルエフェクターは、インプットジャックにプラグが刺さっている時だけ電源が入る仕様にする為に、ステレオジャックにモノラルプラグを挿した際、RingとSleeveがショートする事を利用しています。この為、ペダルエフェクターにステレオのシールドを使うと、「なんか電源が入らない」という事が起こります。プラグ側でRingとSleeveをショートしてしまえば、代用できなくも無いですが、今度はそれを間違ってステレオシールドとして使って大事故になりかねないです。なので、ギター用のシールドを自作する場合には、極力モノラルプラグを用意して下さい。

蓋を閉めて完成

大変美しく仕上がりました。

編み組みチューブがこれ以上径の小さいものが入手できなかった為、常時平べったい感はありますが、まあ概ねいいんじゃないかな。

シールド構造の悪影響の話

綺麗に仕上がって満足なところ難ではありますが、

そもそも”シールド構造は音質的には不利”という話をご存知でしょうか?

音声信号用のケーブルの歴史では、2本の線が並んでいるだけの平行線、簡単に外来ノイズを軽減できるツイスト・ペア・ケーブル、より強力にノイズを遮断するシールド構造、受け側での信号処理を前提としたバランスケーブルと、よりノイズに強い構造へと時代を経て進化してきた経緯があります。そして、より強力なノイズ対策がしてある程、音質的な影響が強い傾向があると思います。

原因が静電容量やら磁界や位相といった、目に見えないものな為。分かり難いですし、私自身完全に理解している訳でもないので、本当に詳しく知りたい方は、その手の専門書を探すか、英語で検索したりして下さい。

シールド構造の場合は、芯線を電流が通る際に発生する磁界がシールドの干渉を受ける。といった具合だったかと思うのですが、(当時読んだ資料が見つからないです。申し訳ない)Mogami 3368 が1芯のシールド線でありながら、高域低域共にしっかりと出るのは、芯線とシールドの距離を物理的に離した事にあるのではないかと。(この辺は本当に個人的な予想なので、あんまり真に受けないでね)

ツイスト・ペア・ケーブルをお勧めしたいが出来ない話

そういった予想を動機にして、実はこのパッチケーブルの前に、ツイスト・ペア構造のパッチケーブルを作っておりまして、音の良し悪しではツイスト・ペアケーブルの方が断然良いと思います。編み組みチューブとか使わなかったので、見た目こそ貧相でしたが、もうなんか3368の音がしました。

どこまでがツイスト構造のお陰なのかは分かりませんが、ノイズも全く気にならなかったです。むしろリアンプのトランスのノイズの方が気になって仕方が無い。

今回、シールド構造のパッチケーブルを作って一番良かったなと思うのが、”シールド構造が実際どの程度音質を損なっているのかを体感できた”事かなと。

言葉で説明するのが難しい癖に、サンプルを録ってもまぁ分からないであろう微々たる差なのですが、シールド構造の場合、若干のハイ落ちでくぐもった感があり、変なピークが付いて硬い音になった印象を受けました。パッシブの世界ですし、ブーストされる事は無いかと思うので、いろんな所が欠損というか減衰した結果、なんかそんなカーブになったと言う事かと思います。

僕の中では今、ツイスト・ペア・ケーブル万歳!なので、本来なら其方をご紹介したいところなのですが、ツイストペアを下手に紹介して、よく分からないままに、ライブハウスとか現場で使っちゃうのは大変にまずかろうと思いますので、「何があっても自分の責任」という固い決意が無い限り、ツイスト・ペア・ケーブルには手を出さないで下さい。最悪、ライブ中にアンプからトラックの無線が爆音で鳴り響きますので。)

今回のシールド構造の物も、Belden8412とかMogami 2534 2549 とかよりは全然いい音しますので、作るなら極力こっち作ってください。ウチでも現在使用中です。「もの凄い周波数特性広いけど紙一重硬い」ぐらいの印象です。更には、芯線とシールドの間に物理的な距離を設ける事で、改善の余地があります。ありますが、取回しが悪くなるので本末転倒でもあります。

さて、一体誰の役に立つのかよく分からない記事が書けて、大変満足しましたので(笑)、これにて終わります。最後まで目を通して下さいまして、有難う御座いました。